1.はじめに
防水施工の下地は、コンクリートがほとんどである。だから何となくコンクリートには防水工事がつきもの、と思っているひとがほとんどだと思う。ただどうしてかということになると、きちんと理解している人は意外と少ない。だから施工のときに薄塗りにしてしまったり、あるいは必要な工程を省いてしまったりというのは、仕事に対する不誠実さだけではなく、そもそもなぜコンクリートに防水が必要なのかが、はっきりと理解されていないことにも原因がありそうである。工事マニュアルはもちろん大事であるが、それが何のためにそうなっているのかを理解していなければ、実感できないのは当然である。そのためここでは、屋根や壁のコンクリートにどうして防水が必要とされるのかを、説明したいと思う。
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2.コンクリートは水が漏れるのか
実は、普通の防水の観点からは、コンクリート自身はかなり防水的である。どの位防水的であるかというと、原則として防水層を必要としない程度と答えても良いだろう。それを確かめてみる。コンクリートの水密性評価には次式で示されるダルシー則が利用されるので、これを用いて調べてみる。
Q = KAP/ L・・・・・・・・・(1)
ここにQ:水の流量cc/s
K:透水係数cm/s
A:試験体の断面積cm2
L:試験体の厚さcm
P:水頭差cm
屋上ではドレンの清掃が悪い場合、木の葉などが詰まり、写真1に見られるように雨水が滞留することがある。このような状況を例としよう。雨水が10cmほど溜まったとする。その時1m×1mの面積のコンクリートスラブ(計算を簡単にするためスラブ厚さも10cmとする)から、どれ程の漏水があるのであろうか。
コンクリートの透水係数は、水セメント比や砂・砂利(これは骨材と総称される)の大きさや量の影響を受けるが、文献1によると骨材の最大粒径30mmで水セメント比55%のコンクリートでは、透水係数が約2×10^−11cm/sとのことである。これを(1)式に代入して計算すると、1m2からの漏水量は1時間で約0.00072ccとなる。こんな微量が屋根スラブから滲み出したとしても、漏れる片っ端からどんどん乾燥する。実質的には漏れないに等しい。
次の例として、地下外壁の場合を考えてみる。地下3階くらいで、周りは地下水に取り巻かれているというウォーターフロントのようなひどい状況とする。だから水深10mを仮定する。地下なので壁厚20cmのコンクリートで作られているとしよう。この場合、地下の一番深いところのコンクリートからどの位の漏水があるのか。これを先ほどの式に代入して計算すると、1m2の面積からの漏水量は0.036cc/時間となる。この場合もまあ漏れるといえば漏れるが、漏水量としてはたいした量とはいえない。そもそも水深10mという仮定が過大で、実際の地下水位は地表よりもっと深いところにあるため、漏水量はもっと少ない。ここまでの屋根および地下での試算でわかるように、通常の防水の概念では実用上、コンクリートは水を通すものとは考えにくい。 |
写真1 屋上の排水不良による雨水の滞留
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図1 ひび割れ幅と漏水量-3) |
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図2 壁ひび割れムーブメントの測定例-4) |
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3.コンクリートに生じる欠陥と水密性
これでは防水がいらないことになってしまう。これが理屈の上では正しい答えである。しかし屋根ではほぼ100%防水が施されているし、地下でもかなりの割合で防水がなされる。なぜか。それはコンクリートには必ずといってよい程、水の漏れる欠陥が生じるからである。だから防水を理解するためには、コンクリートの欠陥を良く知っておく必要がある。 |
(1)ひび割れ
まず最大の欠陥はひび割れである。それではどの位のひび割れ幅から漏水するのか。一番気になるところである。これに対しては多くの研究がある。ところが研究者により試験体や試験条件が異なるため、ただひとつの数値となってはいない。ただ文献2に示される沢山のデータを総合的に眺めると、漏水ぎりぎりのひび割れ幅は概ね0.05〜0.15mmのあたりといえそうである。実際の建物ではこれ以上のひび割れは頻繁に観察されており、漏水の危険性は高い状態にある。
ところでひび割れからの漏水量は、ひび割れ幅、ひび割れ深さ、コンクリートの部材厚さ、加わる水圧の影響を受ける。特に大きな影響を与えるのはひび割れ幅である。この影響に関する仕入等の実験結 果3)を図1に示す。これは10cm厚さのコンクリート屋根スラブの上に雨水が9.5cm溜まった状態を想定したものである。ひび割れ幅が0.05mm位から漏水し始め、ひび割れ幅の約4乗に比例して増加する結果が得られている。
特に防水設計の観点から問題となるのは、ひび割れが温度変化や水分状態の変化、あるいは外力によって動くことである。これらは一般にムーブメントと呼ばれる。図2は筆者等による建物外壁のひび割れの実測結果4)であるが、通常の言いかたでは約0.4mmのひび割れということになるが、一日のムーブメントを測定してみると、0.43〜0.49mmの範囲で動いていたことが示されている。従って0.06mmの振幅で動いたのである。だから防水層は繰り返しの疲労を受ける。ムーブメントの発生しているところの防水層は、特にしっかりしたものにしなければならないのはそのためである。 |
(2)打ち重ね部の水密性
コンクリートの打ち重ね部分も水密上の弱点である。打ち重ね部は施工計画に従って意図的に作られるいわゆる打ち継ぎと呼ばれるものと、作業の都合上一回の打ち込み区域内で、やむを得ず二回にわけてコンクリートが打ち込まれためにできたものの2種類がある。前者ではコンクリートを打ち重ねる時、前もって打ち込まれたコンクリート表面の事前処理がなされるため、ある程度の水密性確保が可能である。しかし後者では成り行きにまかされるので、打ち重ね時間間隔が過度に長くなるといわゆるコールドジョイントととなり、写真2に見られるような水密上の弱点となる。
村田の研究5,6)によると、コンクリート打ち込み24時間後に次のコンクリート打ち込んだ場合、旧コンクリートのレイタンスを洗い流しただけでは、その部分の拡散係数は、打ち継ぎ面を持たない場合の3倍となり、非常に漏水しやすくなるとのことである。ただし旧コンクリート打ち継ぎ面をワイヤーブラシで削り取り、モルタルを塗ることによりそれは著しく改善される。
また図3の筆者等のモルタルを用いた実験7)でも、モルタル打ち込み3日後に旧モルタル面を水洗いし、レイタンスや汚れを除去しただけの試験体では、透水係数が打ち継ぎ面をもたないものに比べて、数倍大きいことが示されている。
次にコールドジョイントの水密性である。我々はこれを透過液として水の替わりに灯油を用いて、モルタルの打ち重ね時間の影響を詳細に調べた8)。灯油は水に比して非常に濡れやすいため試験体内部を容易に透過し、かなり密実なコンクリート、モルタルでも透過量の測定が可能となること、また乾燥が遅いため測定中の液体乾燥の心配がないこと、そしてセメント硬化体でたえず懸念される測定途中での水和が起こらないため、長時間安定して透過性を調べることができる。勿論、水と灯油とでは粘性が異なるため(水の動粘性:1.0×10−6m2/s、灯油:1.5×10−6m2/s、20℃)、得られる結果は絶対値としては同じではないが、透過性という観点からは代替して理解することができる。
図4はモルタルでの測定結果であるが、40℃の場合は途中から一定の値に近づく傾向が見られるが、全体的に打ち重ね時間間隔が長くなるに従って、透過性は指数関数的に上昇する傾向が見られる。この試験の後、蛍光染料を溶かした溶液を再度透過させ、その後ブラックランプを用いて、その発光により水の透過経路を観察した結果を写真3に示す。打ち重ね部分に沿って水溶液がきれいに透過した様子が観察される。さらに打ち重ね時間間隔が長くなるに従って透過幅が狭くシャープになっている。これは打ち重ね部分が十分一体化していないため、水が狭い範囲を卓越して透過していることを示すものであり、水が非常に通りやすくなっていることを示すものである。
それでは打ち重ね部の一体化はどの程度なされているのであろうか。これは打ち重ね部分の空隙を調べることにより知ることができる。従来ミクロレベルの空隙を直接観察する手法はなかったが、我々はGaが29.8℃で相変態する性質を利用し、やや高めの温度でGaを高圧で空隙に圧入して、冷却後EPMAで直接観察する新しい技術を開発した9)。この方法により観察した結果10)が図5(←Click)である。図中赤い部分がGaの存在している部分で、空隙であることを、また濃紺の部分はGaが存在せず、空隙はほとんどないこと、その中間色は多少空隙の存在していることを示す。この結果を見ると、打ち重ね時間が短い場合は、空隙が少なく一体化している。しかし打ち重ね時間が長くなるに従い太い赤い領域が明瞭になってきている。この部分は空隙であり、透水しやすくなっていることが理解できると思う。施工時の温度が高い場合は、それがさらに加速され、40℃では1〜2時間でも空隙が生じている。夏場の炎天下ではコールドジョイント(非常に漏水する)のできやすいことが、この実験からも伺える。 |
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写真2 コールドジョイントからの漏水 |
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図3 モルタル3日後打ち重ね部と建全部の透水係数-7) |
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図4 打ち重ね時間間隔の透過係数に及ぼす影響
(透過液として灯油を使用) |
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写真3 蛍光染料溶液を用いた打ち重ね部の透過経路の観察-8)
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(3)セパレータ周りの水密性
セパレータ周りも漏水の多い部分のひとつである。写真4はセパレータからの漏水の事例である。セパレータの下側は、ブリーディングやコンクリートの沈下により、空隙ができやすいからである。それではセパレータ部分はどれほど漏水しやすいのであろうか。図6に示すような試験体をつくり、やはり灯油による透過試験を行ってみた11)。結果を図7に示すが、漏水量はセパレータの設置高さによってかなり異なる。型枠の上方にあるセパレータ周りでは漏水が大きく、水密性はほとんど期待できない。下の方ではそれが非常に小さくなる傾向が見られる。また打ち込まれるコンクリートの水セメント比の影響も大きく、水セメント比の大きなコンクリートでは漏水しやすい。
これらは空隙構造が密接に関与しているはずであり、これもGa圧入法によりセパレータ周りの空隙の観察を行った。図8にその結果を示すが、上方に設置されたセパレータの下側には赤い領域が半月状に拡がっており、大きな空隙が作られている。一方底面に近いセパレータの周囲は、それがほとんど消失しており、密実な状態になっている。このことからわかるように、セパレータ周りは空隙ができやすく、そのことがセパレータ周りの漏水をしやすくさせる原因である。特に型枠の上方では空隙が残る。防水上の弱点として気をつけなければならない。 |
写真4 セパレーターからの漏水
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図6 セパレータ部試験体
(セパレータは上から15cm、75cm、135cmの位置に設置)
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図7 透過試験結果(透過液として灯油使用)
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(4)じゃんか
じゃんかも実務では多発する欠陥であり、防水の観点からは漏水の大きな原因となる。特に壁は柱に比べて、部材厚が薄いためじゃんかが発生しやすいといわれている。これは施工に起因するが、特に締め固め不良がその原因である。じゃんかがどの位漏れやすいかという点であるが、安田等の散水による実験12)によれば、水の浸透状態はじゃんか部で深くなっており、じゃんかのひどい時には裏面まで到達し、漏水したと報告されている。さらにこれをまとめて、じゃんかの出来やすいのはスランプの小さいコンクリート、壁厚さが12cm以下のような条件であり、振動機により締め固めが必要と結論付けている。じゃんか部分は表面からモルタルを刷り込み、見えないように補修がなされるが、完全に内部までモルタルを充填するのは難しく、見かけ上何ともないように見えるが、防水上脆弱な壁は以外と多い。 |
図8 セパレータ周りの空隙の状態
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4.おわりに
ここまでの説明でわかっていただけたと思うが、防水が必要とされるのはコンクリートが漏水するからではない。むしろ防水的である。しかし出来上がったコンクリートはいろいろな欠陥が発生する。そのほとんどは水密上の弱点となる。だから防水層施工なのである。勿論コンクリートの側でも欠陥が発生しないように努力が払われている。それでも現実の施工条件のなかでは、それら欠陥の回避は不可能である。将来も多分難しいであろう。防水層が止水最前線で戦わなければならない理由はそこにある。
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参考文献
1)日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説JASS5、鉄筋コンクリート工事、p.502、1997
2)日本建築学会:鉄筋コンクリートのひび割れ対策(設計・施工)指針・同解説、p.125、1990
3)仕入豊和:きれつによるコンクリート水密性低下の防止に関する二三の実験的検討、日本建築学会論文報告集、64、pp.217〜220、1961
4)田中享二・申 洪★・安藤紀明・エポキシ樹脂注入によるコンクリート・モルタルのひび割れ補修部の疲労試験方法、日本建築学会構造系論文報告集、554、pp.21〜27、2002
5)村田二郎:コンクリートの水密性の研究、土木学会論文集、第77号、p.92、1961
6)村田二郎:コンクリートの水密性とコンクリート構造物の水密設計、技報堂、2002
7)田中享二・呉 祥根・小池迪夫:ケイ酸質微粉末混合セメント系塗布防水材料が下地モルタルのひび割れおよび打継ぎに及ぼす密実化効果、日本建築学会構造系論文報告集、435、pp.11〜18、1992
8)田中享二・申 英珠:コンクリート中に生じたモルタルの打足し接続部の透過性と細孔構造、日本建築学会構造系論文報告集529、pp7〜12、2000
9)田中享二、胡桃沢清文:セメント硬化体の細孔観察手法の開発;日本建築学会構造系論文報告集、第532号、pp.21〜26、2000
10)申 英珠、田中享二、宮内博之:施工時の温度・湿度環境がモルタルの打ち足し接合部の水密性に及ぼす影響;日本建築学会構造系論文報告集、第567号、pp.13〜18、2003
11)申 英珠、田中享二、宮内博之:コンクリート壁体のセパレータ部の液体透過性と細孔構造;日本建築学会構造系論文報告集、第571号、pp.1〜6、2003
12)安田 保・真下隆男・松尾 忠:コンクリート外壁の水密性に関する実験的研究・その1・施工要因、佐藤工業技術研究所報bU、pp.49〜60、1979
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